「街中スキマ広告」「ちがい探し」話題となった広告にこめたタイミーらしさの源泉
Date : 2024/10/28
「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というタイミーのミッションを体現していくことが役割の、株式会社タイミーのBX(ブランドエクスペリエンス)部。
BX部はスキマバイト「タイミー」を提供するタイミーの「らしさ」を追求した広告を展開し、注目を集めてきました。その代表例が、渋谷のスキマに価値を生み出した「街中スキマ広告」と、新たな働き方を問いかける「ちがい探し広告」です。
それぞれの広告はどのように生まれたのか。BX部が生まれた背景やブランディング戦略で大切にしている理念、過去の広告事例などを木村真依さんと北山玲央菜さんに伺いました。
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目次
「タイミーらしさ」を体現するBX部はなぜ生まれたのか
三島(テテマーチ取締役/ビジネスプロデューサー):
BX部に所属する木村さんと北山さんが担当している業務や、BX部の役割について教えてください。
木村:
BX部は、ブランドの価値をアセット化してそれを向上させていき、企業成長に貢献するのが主な役割です。そのHowを立案・実行するチームとして、ブランディングチームとPRチームが存在します。私はBX部の部長として、主にブランディングとPRを統括しています。
ブランディングチームはミッションを体現するタイミーというブランドを世の中に広める施策を推進する役目があります。たとえば、活動の一環としてオウンドメディア「タイミーラボ」を運営しています。
PRチームの役割は、「企業としてのタイミー」「サービスとしてのタイミー」両方のPRです。具体的には、クライシスやインシデント対応の「守りのPR」と、会社の意志決定を内外に発信したり戦略的なメディア露出などの「攻めのPR」を担っています。
北山:
2つのチームのうち、私はブランディングチームに所属しています。私たちの役割は、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というタイミーのミッションを体現するような施策の立案・実行・検証・リプランです。そのなかで私が主に担当しているのは、コンテンツやクリエイティブ制作、広告のディレクションなどです。
木村:
北山はインナーブランディングも担当しています。社内にタイミーが大切にしている価値観が浸透して初めて、社外に対してのイメージ形成につながると私たちは考えています。
三島:
なるほど。ブランディングを独立したチームとして持つ企業は、まだまだ少ない気がします。どのような経緯でBX部が誕生したのですか?
木村:
世の中の多くの組織は、マーケティングやPRの一部としてブランディングに取り組んでいると思います。しかし、私たちはブランディングとPRを横串で見る必要があると考えたんです。
通常、事業成長のためにマーケティングを実施します。そこで求められるのは顧客の獲得や認知拡大で、それらに基づいてKPIが設定されます。
KPIひいては事業成長をゴールとして、マーケティング活動の一部でブランディングを行う。こう考えてしまうと、どうしてもマーケティング>ブランディングという主従関係が生まれてしまいます。その結果、ブランディングの活動になかなか注力できない環境になってしまうと考えました。
上下関係なくフラットに、他部署と連携してブランディングに取り組める組織にしたい。その考えのもと、代表直下の部署としてBX部を立ち上げました。
三島:
マーケティング活動の中のブランディングという観点になると、どうしても指標ドリブンになってしまう。BX部は、そこから脱却しようという想いがあったのですね。とはいえ、独立した部署を設立するという意志決定に至るには、さまざまな苦労があったと思います。
木村:
そうですね。この構想を伝えた当初はなかなか賛同を得られませんでした。
しかし、チームを立ち上げた2021年には競合サービスも15サービス程度リリースされ始めていて、今後機能面での差別化が難しくなると予想されました。その中でタイミーが選ばれるには、「タイミーっていいよね。やっぱりタイミーだよね」という情緒的な感情を抱いていただけているかがカギを握ると思ったんです。
この印象が今後選ばれ続けるブランドとして重要で、イメージが形成できれば関連部署のKPIにも寄与する。このことを、熱意を込めて代表や経営陣に訴え続けました。
三島:
ロジックとパッションのかけ算で部署の立ち上げに至ったのですね。タイミーのサービスがリリースされた当初、まだまだスポットワークという働き方はネガティブなイメージが強かったと記憶しています。 そのなかで、皆さんが取り組んできたブランドイメージの醸成は、大きな意味があったと思います。
話題づくりで大切にしたいのはユニークさよりも親しみやすさ
三島:
タイミーは「スキマバイト」や街中のスキマ広告など、巧みなワードセンスやユニークな施策が非常に多いなと感じています。こうしたブランディング活動は、どのようなプロセスで誕生しているのでしょうか?
木村:
各施策は、「こういう世界・社会を作りたい」という思いのもとで、経営陣も交えて議論を重ね、企画・立案しています。
一貫して伝えていきたいのは、皆さんの生活に存在する“スキマ時間”が、人生の可能性を広げてくれるということ。ただしメッセージの伝え方では、ユニークよりも親しみやすさを大切にしたいと思っています。
インフラづくりをミッションに掲げる以上、多くの人々にサービスを使っていただきたい。そのためには、嫌われないことも重要なことだと考えています。
そこで、クリエイティブではタイミーを利用しているワーカー様の声を意識的に反映するようにしています。ブランドムービーなども、ワーカー様が実体験したエピソードをもとに動画化しているんです。
その際、大切にしているのがUGC。ワーカー様や事業者様の事実に基づいた声は、信頼や共感を生み出すもっとも説得力のある発信源ですから。
また、各種施策の展開では「話題化」も重視しています。オフラインの施策を実施するとき、それがSNSなどを含めオンラインでも拡散されていくしかけ作りは毎回意識しています。
三島:
僕たちがSNS×OOHに注目しているのは、まさに木村さんが触れた話題化につながるからです。東京の渋谷で展開した屋外広告が、SNSを介して北海道や沖縄にも届くという現代社会において、どのように写真を撮ってSNSにアップしたくなるしかけを作るかは非常に重要です。
現にタイミーの施策はSNSで大いに話題化されましたが、その根底に親しみやすさという観点を大切にするという姿勢があるのですね。その姿勢が、各施策に誠実さも生み出していると感じました。
タイミーの分岐点となった3つの施策
三島:
タイミーのブランディング活動の方針がよく分かりました。これまでに数々の施策を実施してきたと思いますが、タイミーにとってターニングポイントとなった施策はありますか?
①広告好きも注目した5周年記念企画「街中スキマ広告」
北山:
大きな話題を呼んだという点でいうと、やはり昨年11月に実施した「街中スキマ広告」かなと思います。
木村:
サービス開始5周年を記念した企画として、北山とは「5年間の感謝とこれからの5年間への想いを伝えたいね」と話していました。アウトプットの方向性を広告代理店さんと議論して、“スキマ広告”というアイディアに至ったんです。
三島:
渋谷センター街というエリア選定も秀逸だなと思いました。
北山:
渋谷は建物が密集していて、特にセンター街はダンジョンのように建物と道が入り組んでいます。ですが、渋谷の街並みをよく観察すると意外とスキマが多いなと気づいたんです。
そこで、広告代理店さんに現地視察をしてもらって、約100ヵ所の「スキマ広告の候補」を選んでもらいました。候補の中から、感覚的に「ここはスキマだよね」と感じられた10ヵ所を選定して、広告枠の交渉をしたんです。この交渉に一番パワーを割いたと思います(笑)。
その後、センター街に馴染んだクリエイティブを追求しました。たとえば、カラオケ館様の前にあった自動販売機の下には、カラオケの点数を模したクリエイティブにしました。
三島:
このスキマ広告は他社が真似できないという点で、本当に秀逸だなと思いました。正直、「こんなアイディアがあったか!」と悔しく思ったほどです。
北山:
私たちも、スキマという概念の先行優位を獲得できたこの企画は発明だと思いました。広告を見た方も「見つけた感」があったのか、UGCも多く生まれました。
木村:
三島さんのようなプロの方々からは、「悔しい」「これはうまい」というUGCも生まれました。それを見て2人で「嬉しいね」とニヤニヤしていました(笑)。また交渉は大変でしたが、「今まで広告として販売していないスキマの枠」にこだわったところもPRとしてメディア様に取り上げていただけたポイントでした。
②スキマ広告の反省から生まれた上場記念広告「ちがい探し広告」
三島:
ユニークな広告といえば、東証グロース市場への新規上場を記念した「ちがい探し広告」も非常にユニークでしたね。この企画を実施した経緯も教えていただけますか?
木村:
実は、上場記念の広告は2種類展開しました。ひとつは日本経済新聞の新聞広告で、ワーカー様、事業者様の声を集めたクリエイティブを展開しました。もうひとつが、渋谷に掲載した「ちがい探し広告」です。
広告としては、前者が事業者様(toB)向けで、後者がワーカー様(toC)向けという位置づけです。どちらの広告も、今までの固定観念を変革し、新しい働き方を提案していくというメッセージを込めたいと考えました。
三島:
そのメッセージを表すクリエイティブとして、なぜ「間違い探し」を選んだのですか?
北山:
従来の働き方の変化を、ビフォー/アフターで見せられると考えました。その上でこだわったのは、「間違い探し」ではなく「ちがい探し」という表現での訴求です。
前者の表現では、まるで過去の働き方が間違っていると捉えられてしまいます。そうではなく、「タイミーの世界観が実現されることでよりよい社会につながる」というメッセージを”ちがい”として表現したかったんです。
クリエイティブを見ると、ビフォーでは海外から来たお客様に話しかけられて戸惑っている様子のホテリエが描かれています。それがアフターでは、笑顔でコミュニケーションができるようになっています。他にも、アフターではハートマークを浮かべて仕事をしている人が増えています。
三島:
実際に広告を拝見しましたが、仕事を楽しんでいる人々の様子を繊細に描いていますよね。表現されているメッセージはとても考えさせられるものだった一方、広告としては少しハイコンテクストではないかと感じました。
メッセージがうまく伝わらないのではという懸念はなかったのですか?
北山:
今回のクリエイティブでは、スルメを噛むようにじわじわとメッセージが伝わるようなクリエイティブにしたいと考えました。
その背景には、街中スキマ広告での反省があります。スキマ広告は、最大瞬間風速という点で非常に大きな成果を生みました。一方で、渋谷という街のスキマ感を生かしたコンテクストが、地方の方々へうまく伝わらなかったという側面もあったんです。
その反省を活かして、今度は誰もが何度も楽しめるコンテンツを作ろうと決めました。
木村:
実際、掲載した広告は横幅が13mあり、ビフォーアフターで30個の違いがあります。私も現場に行って違いを探しましたが、何度も往復しないと分かりませんでした。その体験をきっかけに、タイミーやサービスに対して興味を持っていただけたらいいなと。
北山:
現地に行ったとき、男女のカップルが広告を眺めていたんです。男性の方が夢中で違いを探していて、女性の方が怒っている場面に遭遇してしまいましたよね(笑)。
三島:
皆さんの想像以上に没入していた方がいたのですね。SNSでは30個のちがいをひとつずつ投稿している人も見かけました。一度のコンテンツでいくつものUGCが生まれるしかけとして、とても勉強になりました。
③「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」を表現したブランディングムービー
三島:
2つの事例以外で、皆さんが印象に残っている企画はありますか?
北山:
真っ先に思い浮かべたのはブランドムービーです。
BX部が立ち上げられて初めて取り組んだ企画で、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というタイミーのミッションを、初めてクリエイティブとして表現した企画でもありました。 この制作は、私たちにとって大きな分岐点だったと思います。
三島:
ブランドムービーは、先ほどの企画のように話題化を目的としたものではなく、タイミーが大切にしている価値観を形にするという目的があったと思います。定量的な成果を示すのが難しいクリエイティブだと思いますが、効果検証で工夫したことはありますか?
木村:
最後まで観ていただけたかという点で、完全視聴数はひとつの指標としました。また、タイミーのミッションが伝わったのか、タイミーに対する心理的ロイヤルティが高まったのかなどを、ブランドリフト調査で検証しました。
三島:
ブランドムービーを通じて、タイミーを利用することの安心感や共感を高められたかを成果の指標としたのですね。
北山:
映像が完成した後、たまたま主婦のワーカー様数人に映像を見ていただく機会があったんです。視聴後、ワーカーの皆さんが一様に涙を流してくださった様子を見て「この取り組みは間違いではなかった」と確信できました。
ブランディングを「科学」するための指標設計
三島:
ここまでの施策の話で、何度か指標についても言及されていますね。ブランディングという定性的な要因が多い施策の成果を可視化する中で、指標設計は非常に重要だと思います。BX部は、どのように指標を設計したりその精度を高めたりしてきたのでしょうか?
木村:
PRもブランディングもどこかふわっとしていて、「なんとなくいいことをしている」という評価になりやすいと思います。私たちはそれをよしとせず、その施策が事業の成長にどう寄与したのかを科学して、明示することが大切だと考えてきました。
とはいえ、指標設計は一度の会議で完成するわけではありません。「この半年間はこの指標を追っていこう」と仮決定し、その指標を満たすための施策を積み重ねます。そして半年後、アウトプットの成果を検証・改善する。
これを繰り返した結果、現在は「ミッションを体現している度合い」と「心理ロイヤルティ」という2つの指標を大切にしています。
北山:
他にも、「共感アクション」という独自のエンゲージメントスコアも重視しています。これはSNSユーザーに私たちのミッション・ビジョンに共感してもらえたかを示す指標で、Xではいいね・リプライ・リポスト(引用も含む)・企画に関連したUGCを指します。
いいねやリポストといった行動はアンコントローラブルな要素だと考えますが、投稿内容に共感してくだされば、何らかの行動(いいね、リポスト、引用ポスト、企画に関連した投稿など)をしてくれるはずだと考え、この指標を設計しました。
木村:
私たちもまだまだ完璧ではなく、現在も試行錯誤中です。今後、「この〇〇のイメージが〇〇に効く」という方程式を導き出しながら、より施策の精度を高められると考えています。
三島:
非常にロジカルなアプローチを繰り返しているのですね。曖昧な要素も多いブランディングに対して、「科学する」と言い切れる姿勢に感動しました。
お話を聞いてひとつ気になったのですが、マーケティング部とはどのように活動のすみ分けを行なっているのでしょうか? BX部とマーケティング部は別々の指標を追いかけていると思いますが、広告やCMなど手法がかぶってしまうこともある気がして。
北山:
サービス開始5周年など、大きな企画はマーケティング部と合同で取り組むことがあります。昨年11月に行われた「宇都宮餃子祭り」に協賛したときも、北関東エリアの営業チームと、BX部、マーケティング部それぞれからプロジェクトメンバーがアサインされ、当日のブース出展などを協同で実施しました。
餃子の力で地域活性!タイミー協賛の宇都宮餃子祭り2023 開催レポート
木村:
大きな違いはリードタイムで、マーケティングは事業数値に近い指標を追っている分、短期的に取り組むことが多いです。一方ブランディングは中長期的に取り組むことが多いです。サービス開始5周年や「宇都宮餃子祭り」以外では、2つのチームで個別に企画を進めることが多いです。OOHやCMといった手法が重なることも珍しくありませんが、それで構わないと思っています。肝心なのは、それぞれの施策の目的が何かだと思っています。
たとえばマーケティングチームが掲載するOOHの内容は、タイミーの便利な機能やメリットの提示などが中心です。機能的訴求の要素が強く、新規顧客の獲得が目的のクリエイティブとなるでしょう。
三島:
よりよい認知を獲得するという皆さんの広告とは、大きく方向性が異なりますね。
木村:
どちらのチームがプロジェクトを担当するかについては、目的ドリブンで決めています。「この案件は新規顧客獲得が目的だから、マーケティングチームだな」とか、その逆もまた然りという感じです。
また、独自に施策を展開した結果、お互いの施策がお互いの成果に影響することも珍しくありません。たとえば、私たちが制作したブランドムービーとマーケティングチームが展開したCMを両方見た方は、ブランド好意度が高まりやすいというデータが出ています。
三島:
ブランディングとマーケティングの相互作用が生まれているんですね。その関係性が成立できるほど、密に連携できるような体制になっているのだなと感じました。
これからもいろんな「スキマ」でタイミーらしい取り組みを
三島:
最後にBX部が今後チャレンジしていきたいことを聞かせてください。
木村:
事業者様やワーカー様を含めてタイミーのファンを増やし、もっともっと「ポジティブな発話が生まれるブランド」にしていきたいと思っています。自分たちの声ではなく、ファンの皆様の声がタイミーへの信頼や共感につながります。その点を意識して、UGCの創出やクリエイティブへの反映につなげていきたいと考えています。
北山:
具体的な施策としては、「ちがい探し」のクリエイティブを横展開していこうか検討中です。たとえば、グルメフェスなどのオフラインイベントでは、多かれ少なかれ行列や待ち時間が発生します。
その待ち時間を楽しむために、「ちがい探し広告」のようなクリエイティブを配布したいなと……。「街中スキマ広告」の横展開も、今後取り組みたいです。
三島:
まさに「スキマ時間」の活用ですね。スキマに独自の価値を生み出せるのは、タイミーならではの取り組みだとつくづく感じさせられました。
木村:
これからもっと、社会に埋もれているスキマを再発見したいです。
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