SNSという枠に留まらない「Instagram」の可能性。 Facebook Japanと考えるコンテンツの未来
Date : 2021/09/09
今や誰しもが日々の習慣のように活用しているSNS。その中でもInstagramは、振り返ると2010年のローンチ直後は写真加工アプリとして、その後は“インスタ映え”に代表されるような華々しい写真投稿プラットフォームに。
そして現在は写真のみならず、動画、ライブ配信、ショップ機能など、あらゆる機能が追加され、まるでひとつのアプリケーションとは思えないほどに活用方法が多様化しています。
では、Instagramの流行やユーザー属性などはどのように変化し、今を迎えているのでしょうか。Facebook Japan株式会社・中村淳一さん、テテマーチ株式会社・三島悠太、ふくま まさひろがプラットフォーマーと運用者それぞれの目線で語ります。
目次
利用者へのヒアリングによって生まれる多様な機能とコンテンツ
三島悠太(以下、三島)
今日はお話できることを楽しみにしていました。よろしくお願いします!
ふくま まさひろ(以下、ふくま)
中村さん、よろしくお願いします!
中村淳一(以下、中村)
こちらこそよろしくお願いします!
三島:今回はInstagramのコンテンツの変遷、運用のトレンド、クリエイターとの共創などをテーマににお聞きします。この記事はその第一弾で「コンテンツの変遷」に焦点を絞ってお話したいです。2010年にローンチしてから今まで、随分とInstagramの楽しみ方、表現されるコンテンツは変化していますよね。
中村:ローンチ初期のInstagramは、写真をおしゃれなフィルターで加工して投稿するアプリでした。その後、静止画のみではなくリアルタイム性に富んだInstagramスト―リーズ、短尺動画を楽しむことができるリール、購買機能を備えるショップ機能など、多くのアップデートを行ってきました。
そういった機能改善に伴い、利用者の楽しみ方も多様化しています。とりわけ、3Gから4G、5Gと世の中の技術革新が進んでいることもあり、リッチなコンテンツを楽しむ傾向が現在はより一層強くなっています。
三島:実際に企業さんのInstagram運用を担当している僕たちも、ここ1〜2年間でコンテンツのバリエーションが一気に幅広くなっていると感じています。3年ほど前まではフォトグラファーとタッグを組んで写真を撮影して投稿するような運用が一般的でしたが、今はアートディレクターやデザイナーにも声をかけてチームを組んでさまざまなアプローチでアカウントを育てることも増えました。
ふくま:Instagramで生まれているコンテンツの多様性は、他のプラットフォームやサービスと比較しても一線を画していると思います。その変遷は、意図的に生み出してきたものなのか、ユーザーの活用法から方向性を見出しているのか、どちらなんでしょう。
中村:基本的には、プラットフォーマーとしての我々の視点だけを重視するのではなく、利用者のフィードバックを取り入れて改善を進めていることを大切にしています。あまり知られていないかもしれませんが、我々は利用者へのヒアリングを通したリサーチの機会をかなりの頻度で設けているんです。
日頃の使い方、サービスに求めているもの、課題感などを詳しく伺い、それらを新しい機能開発に活かしています。定量的に数字を追いかける分析もしていますが、それと同じくらい定性的な観点でのヒアリングも大切にしているんです。
三島:そうだったんですね。頻繁にA/Bテストを行っている印象があったので定量分析がメインなのかと思っていました。
中村:たとえば、スト―リーズは利用者の「もっと気軽に、日常の些細な瞬間を投稿したい」というフィードバックを形にした機能です。ストーリーズの開発を検討していた当時、Instagramは前述の通り、写真投稿用のプラットフォームとして認識されることが多く、中でも少し華美な“インスタ映え”と称される投稿が特に人気を集めていました。ほとんどの利用者にとって日常生活は”映える”シーンばかりではないけれど、華美な投稿が多いと、シェアするのに気後れしてしまう。そういった経緯から、日常を飾らずありのまま発信する機能が欲しいというニーズが増えていたんですね。
そこで、スト―リーズという全く新しい機能の開発に至りました。いいねやコメントも敢えてつけられない仕組みにすることで、利用者がプレッシャーを感じることなくシェアできる場所を作り、24時間の制限付きで日常の何気ない瞬間を投稿できるようにしています。
三島:ストーリーズがリリースされたばかりの頃は、フィード投稿が一軍、ストーリーズ投稿は二軍として使い分けているユーザーが多いイメージでした。ところが、現在はフィードとストーリーズとでしっかりと役割を使い分けているユーザーが増えていますし、実際、弊社が開発している分析ツール「SINIS」の統計でも、フィードよりもストーリーズのポスト数のほうが増えているというデータもあるほどです。
中村:仰る通り、フィードとストーリーズとでは役割が明確に異なりますよね。プロフィールやフィード投稿がストック資産なのに対して、ストーリーズはそれらを示唆する役割を担うフローコンテンツ。よくWeb業界では「オウンドメディアのコンテンツは資産」と言われますが、Instagramもまさに同じ構造。アカウント設計において、役割ごとに 全体の機能を使用いただくのが大切だと思います。
Instagramの運用に“勝ちパターン”はあるのか?
三島:弊社でアカウント運用をご一緒する企業さんにも、課題に合わせて運用方法を変えてご提案しています。熟考の末、フィード投稿に全振りすることもありますし、リールで短尺動画を発信していくこともあって、正直「こうすればアカウントが成長する!」っていう勝ちパターンが本当にないんです(笑)。
中村:たしかに、運用担当側としては勝ちパターンがあると嬉しいですよね(笑)。先ほどはフィードとストーリーズの話をしましたが、リールや発見タブは新しいものと出会うための機能。特にリールはエンターテインメント性のある短尺動画へのニーズが高まっていることに着目して生まれた機能です。リール専用タブは、まだフォローしていないアカウントの動画も表示される仕組みですから、新規フォロワーの獲得にも効果的です。そういう意味で、フォロワーに向けたコンテンツとしてだけではなく、今後フォローしてくれるであろう人のために投稿するのも良いんじゃないかと思います。
ふくま:リールの活用に関してはまだ成熟していない部分もあり、現時点ではスピード感を持って取り組む個人の方の活用が多いですよね。TikTokで掲載した動画をリールでも投稿するような流れが多いように感じていて。
あとは、美容系の情報を発信されているアカウントでよくあるのは、メイクの早回し動画をリールで掲載して、細かな解説や紹介はフィード、のような流れ。リールが持っている新規性と短尺の特徴を活かして、サッと見れる情報コンテンツでリーチを拡大してフィードにという循環が生まれています。
三島:その他、以前運用をご一緒したとある車のメーカーさんでは、テレビCMのオフショットをリールに投稿したところ、すごく再生数が伸びて……3日間くらい発見タブに乗り続けるほどでした。おそらくですが、作り込みすぎない「素」の雰囲気が効果的でそれほどの結果につながったのだと思います。
中村:Instagramはアルゴリズムで利用者ごとに表示するコンテンツや広告、表示順がパーソナライズされるプラットフォームなので、いいね、コメント、保存、視聴完了などの利用者側のエンゲージメントが重要。機能ごとの特性やコンテンツのカテゴリだけではなく、アルゴリズムの根幹を理解した上で運用しているのかどうかが今も未来も重要になってくるはずです。
リールの活用に注力することでフォロワーやエンゲージメントが急速に伸びる成功事例が増え始めているのですが、たとえば我々が注目しているクリエイターの一人が、マツヤ マイカさん。1年ほど前はフォロワーが1万人ほどだったそうですが、毎日リールを投稿することで、今ではフォロワーが13万人まで成長しました。彼女も良い意味でクリエイティブを作り込みすぎず、親近感を持ってもらえるような見せ方をしたり、楽しんで投稿を続けたりすることで、多くのファンを獲得していると言えます。
リールに限ったことではありませんが、こんな風に個人のクリエイターさんがInstagramの活用方法を先行して見出すことも多いので、その運用や投稿スタイルを企業が参考にして後追いするのも良いと思います。
多様なコンテンツの登場が創る、Instagramの新たな楽しみ方
三島:ローンチから約10年間が経過して、機能幅が広がり、ユーザーの属性や楽しみ方もどんどんと移り変わっているのがInstagramですよね。今後の未来で広がるであろうコンテンツやトレンドなどに関して予想しているものはありますか?
中村:まず、5Gの到来によってコンテンツ全体はリッチ化していく傾向にあるだろうと踏んでいます。また、具体的な機能についてはなんとも言えませんが、弊社としては最近CEOのマーク・ザッカーバーグが発表したように、クリエイターが生計を立てられるプラットフォームとしての成長を掲げる同時に、コマース領域でのアップデートに一層着手する予定です。その結果として、さらなるコンテンツの在り方、楽しみ方が広がるのではと考えています。
Instagramがミッションに掲げている「大切な人や大好きなことと、あなたを近づける」という軸はこれからも変わることがありません。クリエイター、企業、そして生活者である利用者……Instagramを活用しているすべての人々にとって、最良のプラットフォームでいられるよう進化を遂げていきたいですね。運用者としてInstagramを見つめるお二人はどうですか?
ふくま:僕たちもクリエイターとの共創に力を入れた、SNS時代のプロモーション企画集団「餅屋」というものを運営しているので、クリエイターのためのプラットフォームという考え方にすごく共感しています。クリエイターと共に良い未来を作るために、あらゆる観点からコンテンツを生み出し、届ける土壌を作っていきたいです。そういう話題も、また後ほど詳しくお話させてください(笑)。
三島:アカウントプランニング側からの観点でいうと、特定のコンテンツやトレンドでは語りきれないのがInstagramなのかなと思っています。それこそ、始めのほうでお話したアカウント内のコンテンツを役割を明確にして循環させることが何より大切なのかなと。
新しい機能だからというだけではなく「なぜリールを活用するのか?」「アカウント全体をどのような場所として認知されたいのか」などを考えながら運用を行なっていくことで、クリエイター、企業、生活者、そしてプラットフォーマーの4者がフェアにInstagramという世界を楽しむ活用ができるのではないかと思っています。